
どうも、カワウソです。名前は……カワウソです。こなっしーの秘書をしています。していると言っても、主な仕事はご主人の代わりに「休んで」差し上げることです。どうやらご主人は、私がソファーでテレビを見てくつろいでいると、まるで自分が休んでいるみたいに思えるそうで…。ご主人は実に変なお人なのです。
私がご主人に買われたのは、今から約1年前の昨年の5月のことです。私は、さいたま新都心の「ヴィレッジバンガード」で、たくさんの仲間と共に上から吊されて売られていました。

私たちのセールスキャッチは「このもふもふに癒やされたい…」

その言葉に誘われて、たくさんの若い女の子たちが私たちのところに寄ってきて、「きゃわいい〜、もふもふしてて気持ちいい〜」と黄色い声を出してすりすりしてくるので、そりゃ私たちは嬉しくて幸せだったものです。
ある日、そんな私たちのところに一人のおじさんが子連れで近づいてきました。
眼鏡をかけてて小太りで着ているもののセンスも悪く、明らかにオタクっぽいおじさんです。
「こんな若い子が集まるファンシーショップに来るおじさんは、きっと変なヤツに違いない…」
スッとおじさんがいなくなった隙に、みんなでそう話していました。そのおじさんは何度かしげしげと私たちを見ていましたが、数分経って子どもと共に店を出て行きました。私たちは買われなかったことに、ホッと胸をなで下ろしました。
ところが、しばらくすると、そのおじさんがまた店に戻ってきて、目の色を変えてツカツカこっちに寄ってくるではありませんか!どうやらこのおじさんは本気で私たちを買おうと決心したらしく、私たちの品定めを始めました。みんな、自分が買われまい、とわざと変顔をしたり、体の向きを変えたりと必死です。そんな時…
「しまった!!」

私はつい、そのおじさんと真正面からパチッと目を合わせてしまったのです。気が付いたら、上から吊されて「栗」のようになっていた私の顔を両手で持ち上げ、そのおじさんは私をレジに連れていきました。
「カワウソ生、終わった…」
私はおじさんと目を合わせたことを激しく後悔し、これからのカワウソ生を憂いました。「きっとこのおじさんは、私を抱き枕か何かにするのだろう…朝になったら重たい体に押しつぶされてペシャンコになっていたり…オヨヨヨヨ…」ビレッジバンガードの一番大きいビニール袋に入れられて店を出た私は、涙にくれていつの間にか眠ってしまいました。
気が付いたとき、私は車の助手席に座っていました。
「あれっ、シートベルトがしてある。おいおい、私は人形だぞ!」

しばらくすると、車はおじさんの家らしき前の駐車場に止まりました。おじさんは私を抱え、自分の部屋に連れて行くと、ソファの上に私を座らせ、毛布をかけてくれました。

「ここでしばらく、休んでいてな…」
おじさんはそう言ってテレビをつけると、どこかに行ってしまいました。

「意外とここは悪くないかもしれない…」
マイクラの実況を見ながら、私はソファのリクライニングを愉しみ始めました…
それからというもの、なぜかこの家でこのソファが私の定位置となりました。
そのおじさんこそが、何を隠そう私のご主人なのですが、ご主人や息子がこのソファに座るときは、「ごめんよ、カワウソや…」と言って私を仕事用の椅子にやさしくずらします。
ご主人や息子がソファで寛ぐ短い間だけ、私がデスクワークに励む…って訳です。

カワウソ生、色々な生き方があるものです。ご主人の話ではどうやら仲間達は数ヶ月後にはすべて売られてしまったらしく、もう元の店にはいなかったそうです。
また、私が一人でいるのを寂しいそうと感じたご主人は、相方を見つけてやろうとネットで販売元を検索してくれたのですが、この時代に、販売元の情報や他に売っている店は一切ヒットしなかったんだそうです。
「これも運命…」私はそう諦めて、このご主人に秘書として仕えることにしました。
私のご主人は、よく自分の部屋でブツブツ独り言を言い、「なあ、カワウソよ」と同意を求めてきます。私はいつも返事に困り下を向いているのですが、ご主人の話を聞いていると、色々と考えさせられることもあります。この「カワウソの部屋」では、そんなご主人の独り言を、ほんの少しずつですが紹介させて頂きます。秘書ですから、本当は話しちゃいけないんですけど…ご主人には内緒ですよ。(第1話終わり)
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