作曲作品紹介
吹奏楽のための抒情組曲
「阿武隈讃頌」
(吹奏楽曲)
第1楽章のみ公開しています。
この「吹奏楽のための抒情組曲“阿武隈讃頌”」は、私の父の故郷である宮城県角田市の中央を流れる“阿武隈川”と、その流域に広がる雄大な自然に対する私の郷愁、憧れ、畏敬の念を音にした作品です。1998年2月に埼玉県越谷市の越谷コミュニティーセンター小ホールで、文教大学吹奏楽部によって初演されました。
阿武隈川は福島県西白河郡に水源を持ち、宮城県の仙台湾に注ぐ239キロメートル、日本第6位の長さを持つ大河です。宮城県角田市は河口より30キロメートルほどの下流に位置し、仙台平野の末端に位置する角田盆地と呼ばれる平地と、阿武隈山地に囲まれた、農業中心の自然豊かな土地です。
私はこの地に強い想いがあります。それは自分にとってここが言わば“心の故郷”ともいうべき土地だからです。私は東京生まれの東京育ちであるはずなのに、父の生まれ故郷であるこの地を訪れるたびに、自分の帰るべきところに帰った気持ちになるのです。大学の卒業を迎えるにあたり、今まで心の故郷として、私の魂と、音楽を育ててくれた阿武隈川の流れ清らかなこの地に感謝し、この曲を作曲しました。
第1楽章
長かった流れの旅もようやく終焉を迎えようとしている。河は長い旅の思い出を語りかけるかのように、そしてそれはあたかも老人が自分の人生を回顧するかのように、静かに、そしてゆるやかに流れる。時間の止まったこの空間に、悠久の昔より続く、何も驕らない、何も飾らない、自然本来の姿がある。
第2楽章
この壮大な自然に遥か長い歴史があるように、人々もまた長い時をこの河とともに生きてきた。河を見つめる鎮守の森、水辺に浮かぶ朽ちた小船、何も語るはずのないそれら一つ一つが、この地でしか聞こえない特別な周波で私に多くを語りかける。励まし、戒め。この地の土となった人々の魂の声が、ここには満ち溢れている。
また、河は時として厳しい姿をみせる。すべてのものを凍らせる冬の河。肌を突き刺すような北風が吹きすさぶ中、河はその黒々とした水を大きく揺らし、何人をも近づけようとしない自然の厳しさの象徴としての姿を露にする。
この大いなる大地とすべての生命に潤いを与え、喜びを与える母なる河、阿武隈。この偉大なる大河を心より讃えよう。美しく、麗しき河は海をめざし、豊かな水を湛え、今日も静かに流れてゆく。